「コンサルタントの秘密」を読む

Yusuke Shinyama, Jul. 2023

概要

"The Secrets of Consulting" (日本語訳「コンサルタントの秘密」) は 1985年に刊行された ジェラルド M. ワインバーグ (Gerald M. Weinberg) による本である。 名著として、コンサルティング業界ではよくとりあげられる。 著者のワインバーグはもともとIBMの技術者として働いた後、独立し、コンサルタント・教師・著作者となった。

本日の目標

おことわり: 内容が非常に濃い本で、大幅に端折っています。 「これは自分の解釈と違う」という部分もあるかもしれませんが、ご容赦ください。

前書き

「コンサルタント」とは「他人の求めに応じて、他人に影響を与える仕事」である。 今日、多くの人がコンサルタント的な役割を負っている。 他人から手引きしてほしいと言われれば、あなたはコンサルタントだ。 しかし同時に、コンサルタントは「求めに応じて与えたアドバイスで、 相手から逆ギレされる」という不条理に悩まされている。 この本はそうした不条理に悩まされているすべての人々のためのものである。

1. コンサルティングのどこがそれほど難しいのか (Why Consulting Is So Tough)

コンサルタントとクライアント (より正確には、クライアント側の管理職) の間には、つねに微妙な競合関係が存在する:

シェルビーのコンサルタント三法則 (Sherby's Laws of Consulting)

結局、コンサルタントができる最大のことは、 クライアントの面子をつぶさないようにこっそり改善し、 すべての手柄をクライアントに与えることである。

金が欲しければ、手柄はあきらめろ。手柄が欲しければ、金はあきらめろ。
(Influence or affluence; take your choice.)

ディスカッション

お題
これに関する自分の経験、コメント、反論などを話してみましょう。

2. パラドックスに対処する方法 (Cultivating a Paradoxical Frame of Mind)

こんにち、人々は「最適化病 (optimitis)」にかかっている。 彼らはそれが合理的だと信じているためだが、 もし合理的なアプローチがうまくいけば人はコンサルタントなど雇わない。 コンサルタントに必要とされるのは、必ずしも合理的・論理的ではないが、 筋の正しそうなアプローチを試してみることである。 このさい有用なのが通称「オレンジジュース・テスト」である。

オレンジジュース・テスト (The Orange Juice Test)

無能なホテル業者は「できません」または「絶対やります」と回答する。 有能なホテル業者は、トレードオフを提示してくる。

それは可能です - が、これだけ費用がかかります。
(We can do it - and this is how much it will cost.)

ディスカッション

お題
トレードオフについて意識していることは? (PMs, Designers, and Devs)

3. 門外漢でもうまくやる方法 (Being Effective When You Don't Know What You're Doing)

コンサルタントの多くは専門家である。 専門家というものはみな自分の専門で物事を見るため、木を見て森が見えない。 有能なコンサルタントは自分の専門外の問題も解決できる。 どうやるのか?

マーヴィンによる医者の秘訣 (Marvin's Medical Secrets)

人体というものは複雑なシステムで、すべてを完璧に理解することは不可能である。 しかし、90%の病気は放っておいても勝手に治ってしまう。 これを応用する。

  1. 自己治癒能力が備わっているシステムは、基本的にそっとしておけ。
  2. 同じ処置を何度もしていると、そのうち効かなくなる。
  3. すべての薬には使い方が重要だ。
  4. ある方法を試してみてうまくいかなければ、別の方法を試せ。
  5. 患者が自分の言うことを聞くように診察料を設定せよ。
  6. 「何をするか (know-how)」よりも「いつするか (know-when)」のほうが重要だ。

でも、もし治らなかったら?

多くの人は、この最後のルールをコンサルタントにも適用する。 コンサルタントは、自分の経歴がインチキっぽく見えないように渾身の努力をせねばならない。

ディスカッション

お題
自分の視野を広げるために努力していることはありますか?

4. そこにあるものを見るには (Seeing What's There)

このあたりから、各章は具体的な tipsの羅列になっていく。

コンサルタントにとって、 ものごとを観察する手段は多いほどよい。

クリスマスプレゼントに金槌をもらった子供は、なんでも叩きたくなってしまう。

コンサルタントを含む、多くの人々が見落としている (あるいは急ぎすぎて無視している) 情報がある。それは歴史である。

いまの問題がこうなっているのは、そこに至る道筋があったからだ。

歴史を知っている人はもっとも重要な情報源である。 過去を批判するためではなく、理解するために歴史を学べ。

ある問題を引き起こした原因に近づくにつれ、その問題を解決できる見込みは減っていく。

5. そこにないものを見るには (Seeing What's Not There)

ときに「あるもの」ではなく「ないもの」が問題の本質を語っている場合がある。

いちばん目立つ問題を解決すると、二番目の問題がトップに出てくる。

これを繰り返した結果、小さな問題がいくつも残った状況になる。 こうした問題を発見するにはどうすればよいか?

これでも十分でない場合は、自分自身の頭のタガをはずしてみる。

ディスカッション

お題
「観察」に関する tips は他になにかありますか?

6. トラブルを避けるには (Avoiding Traps)

ほとんどのトラブルは外的要因によるものではなく、自分の不注意によるものだ。 危険を避けるため、コンサルタントは自分の生活のあちこちに 警告システム (trigger) を仕掛けておく。

物事を知らなくても害はないかもしれないが、物事を忘れると必ず害がある。

タイタニック効果 (The Titanic Effect)

「事故など起こるはずがない」という考えが、ときに未曾有の大惨事につながる。

プログラマにとって、忘れることによるトラブルはつきものだ。 これを防ぐための有効な手立てを用意することができれば儲かる。

ディスカッション

お題
日々の業務で仕掛けている「警告システム」には何がありますか?

7. 自分の影響を増幅させるには (Amplifying Your Impact)

実際にコンサルタントができることはわずかである。 コンサルタントが成功するためには、少さな効果を増大させる必要がある。 コンサルタントは、 クライアントからは何もしていないように見えるのが一番よい。

「ガタガタする人」 (The Jiggler Role)

組織には外部から人が入ってくる機会があり、 それがもとで組織に変化が生じる場合がある。 ときに新入社員やコンサルタントがその役割を果たす。 コンサルタントは外部の人間であるがゆえに、 システムがそれまで引っかかっていた (stuck) 部分を "unstuck" させることがある。

Over the years, I've discovered that what I do has no commonly accepted name. The best name would be jiggler, but who in his right mind would pay for the services of a jiggler? Sounds too much like juggler, or giggler, or even gigolo. So, after trying various alternatives, I still use the public name "consultant," although secretly I know I'm a jiggler. (My Tarot card is the Fool.)

長いあいだ、私は自分の役割に一般的な名前がないことに気づいていた。 たぶん一番それらしいのは「ガタガタ貧乏ゆすり屋 (jiggler)」だが、 どこのまともな人間が貧乏ゆすり屋に金など払うだろうか。 なんかジャグラーに似ているし、くすくす屋 (giggler) とか、 ジゴロのようにさえ聞こえる。仕方がないので、あれこれ試した結果、 いまだに私は「コンサルタント」と名乗っているが、内心ではひそかに自分は 貧乏ゆすり屋だと思っている(私のタロットカードは「道化」だ)。

これは次の記事を思い出させる: The Only Algorithm for Hard Problems: Shake and Pull Gently

「系の温度を上げて、ゆっくり冷やす」 - これは Discovery & Framing にも共通する手法のように思われる。

8. 変化を起こさせるには (Gaining Control of Change)

組織の変化は、なるべく変化させまいとしているまさにその部分から起こる。

9. 安全に物事を変化させるには (How to Make Changes Safely)

たいていの危機は危機ではなく、ただ単に幻想が崩れただけである。

10. 抵抗されたらどうするか (What to Do When They Resist)

雄牛は、好きなところへ動かすことができる - それが行きたいと思うところであればどこでも。

11. どうやって営業するか (Marketing Your Services)

ほとんどの人は最初からコンサルタントになるわけではなく、 何らかの専門職で働いていて、何かのきっかけで相談を受ける立場になる。 この場合、かつての職場が自分の最初のコンサルティングの客になる。

コンサルタント営業の法則 (The Laws of Marketing)

コンサルタントにとってもっとも効果的な営業は、客の口コミである。 コンサルティングは「客が客を呼ぶ」商売であるため、 コンサルタントにとって「適度に忙しい時間」というものはない。 たいていのコンサルタントは暇か、忙殺されているかのどちらかだ。

コンサルタントにとって、1/4以上の収入を単一のクライアントに依存するのは危険である。 そうするとクライアントに対して正直になれなくなり、コンサルティング能力の低下につながる。

リンの人生法則 (Lynne's Law of Life)

では、客を満足させるにはどうするか?

12. 自分のアタマに値段をつけるには (Putting a Price on Your Head)

価格と金はイコールではない。価格とはクライアントとの関係を表すのだ。 金のために仕事を受けてはならないし、もし客が自分の仕事を気に入らなければ、金をとってはならない。

13. どうやって信頼してもらうか (How to Be Trusted)

信頼はコンサルタントにとってもっとも重要である。

信頼の法則 (Laws of Trust)

ディスカッション

お題
他人に信頼してもらうために心がけていることは?

14. アドバイスに耳を傾けてもらうには (Getting People to Follow Your Advice)

最後にワインバーグは、知り合いの農家から教えてもらった農園に関するアドバイスを記している。

  1. ベストな種子を使え。アイデアは種子であり、育てる前に洗練しておくべきである。
  2. 農業の秘訣は土壌だ。いい土は準備するのに時間がかかるが、究極的にはいい土と種子さえあれば、あとはただ待っているだけでよい。
  3. タイミングが重要だ。早すぎても遅すぎても生育に影響する。
  4. 自分で根を張る苗がもっとも成長する。押し付けすぎるのはよくない。
  5. 水のやりすぎは危険だ。あまり資源を与えすぎるとかえって苗は弱くなる。
  6. どれだけ努力しても、実らない苗はある。生物は複雑なシステムだ。 すべてが自分の思いどおりにならなくても仕方がない。

Yusuke Shinyama